一級建築士事務所日本美環室

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設備の手戻りを減らす、意匠設計から早めに渡したい情報

文:松野 永岬(一級建築士事務所 日本美環室 代表・設備設計一級建築士)

写真はイメージです

この記事の要点

  • 室用途・在室人数・テナント業態は、空調・換気・給排水の容量を決める出発点になる
  • 天井ふところ・梁せい・PSや機械室の位置は、平面と断面が固まる前に共有したい
  • インフラ調査、省エネ適判の要否、予算と将来計画も、基本設計の段階でそろえておきたい

設備設計の依頼をいただくとき、平面図と立面図がほぼ固まった段階で初めて図面が届くことがあります。私はそこから空調・換気・給排水・電気の計画を組み立てますが、ダクトが通らない、機械室が足りない、といった問題が後から見つかることも少なくありません。

その多くは、設備設計者の技術力の問題というより、情報を受け取る時期の問題です。設備は建物の「すき間」と「外とのつながり」に入るものなので、平面や断面が固まった後では、選べる手が一気に狭まります。

この記事では、設備設計者の立場から、基本設計の早い段階で共有していただきたい情報を整理します。それぞれ、なぜ早く必要なのか、遅れると何が起きるのかをあわせて書きました。意匠設計の方や、工務店・建設会社の設計担当の方の参考になればうれしいです。

建物と部屋の使い方:用途・在室人数・テナント業態

設備の容量は、部屋の使い方から決まります。同じ面積の部屋でも、事務室と会議室と店舗では、人の密度も発熱も換気の考え方も違います。

早めに知りたいのは、次のような情報です。

  • 室ごとの用途と、想定する在室人数(ピーク時の人数)
  • 大きな発熱のある機器(サーバー、厨房機器、生産設備など)の有無
  • 営業時間や使用時間帯の違い(夜間だけ使う室、24時間使う室など)
  • テナントが入る場合は、業態と厨房の有無

特に厨房の有無は大きな分かれ目です。建築基準法第28条第3項では、調理室などで火を使う設備や器具を設けた室(政令で定めるものを除く)には、政令で定める技術的基準に従って換気設備を設けることが求められています。厨房があると、排気のダクトルートや給気の確保、排気の出口の位置、給湯やガスの容量、グリース阻集器(排水中の油脂をためる装置)の置き場まで連鎖して決まります。

テナントの業態が「未定」のまま進み、後から飲食店に決まると、排気ダクトの立て経路を後から確保することになります。上階の平面を削る、外壁にダクトを露出させるといった、意匠にとっても望ましくない対応になりがちです。未定の場合でも「飲食の可能性あり」と一言あるだけで、予備のスペースを見込んでおくことができます。

設備の居場所:天井ふところ・梁せい・PS/DS/EPS・機械室

設備は、天井の中と、縦に通るシャフトと、機械を置く場所がなければ成り立ちません。ここは平面と断面が固まる前に相談したいところです。

天井ふところ(天井面から上の床スラブまでの空間)は、ダクトや配管、照明器具が通る場所です。天井高を優先して階高を抑えると、ふところが薄くなります。そこに大梁がかかると、梁の下を通すダクトの余地がさらに減ります。梁せい(梁の高さ)と梁の位置が分かれば、ダクトを梁と平行に流すか、梁貫通(梁に穴をあけて通すこと)が必要かを早めに構造設計者と話し合えます。梁貫通は構造側の検討が必要になるため、後から頼むほど調整が難しくなります。

縦のシャフトも同じです。PS(配管スペース)、DS(ダクトスペース)、EPS(電気配線のスペース)は、各階で同じ位置に積み上がることが基本です。上下階で位置がずれると、横引きの配管やダクトが増え、天井ふところをさらに圧迫します。排水は勾配が必要なので、PSから遠い水まわりは特に注意が必要です。

機械室と屋外機置場も、面積だけでなく位置が大切です。屋外機は、周囲に熱を逃がす空間、点検と更新のための搬入経路、隣地への騒音への配慮が必要です。屋上に置く場合は、荷重と防水の納まりにも関わります。平面が固まってから「屋外機の置き場がない」となると、駐車場や植栽のスペースを削る話になりやすいです。

敷地の外とのつながり:インフラの調査結果

建物は、電気・ガス・上下水道につながって初めて使えます。インフラの条件は敷地ごとに違い、設備計画の前提を大きく左右します。

  • 電力:引込の位置、想定する受電の方式(低圧か高圧か)、電力会社との協議の状況
  • ガス:都市ガスかプロパンガスか、本管の位置と口径
  • 給水:水道本管の位置と口径、水圧、受水槽が必要かどうか
  • 排水:公共下水道の処理区域かどうか、汚水と雨水の放流先

たとえば排水では、建築基準法第31条第1項により、下水道法の処理区域内では、便所は原則として公共下水道に連結された水洗便所としなければなりません(2027年1月施行予定の改正で、公示された一部の区域を除く扱いが加わります)。また同条第2項により、終末処理場を有する公共下水道以外に放流する場合は浄化槽を設ける必要があり、その置き場と放流先を敷地計画の中で確保することになります。

電力やガスの容量が足りないと分かるのが遅れると、受変電設備の設置スペースを後から探すことになったり、引込工事の協議に時間がかかって工程に影響したりします。インフラの調査は意匠・設備どちらが担当するかを最初に決め、結果を早めに共有できると安心です。

法規・予算・工期・将来計画

最後に、設備の方針そのものに関わる条件です。

法規では、用途地域・防火地域などの地域指定に加えて、省エネの手続きが重要です。国土交通省の資料によると、2025年4月以降に工事に着手する建築物から、全ての新築で省エネ基準への適合が義務化されました。建築物省エネ法第11条では、建築確認を要する対象の建築では、原則として工事に着手する前に省エネ適合性判定(省エネ適判)を受けることが定められています。適判が必要な場合、同条第8項により、確認は適合判定通知書の提出を受けた場合に限り行えることになっています。一方、同条第1項ただし書では、国土交通省令で定める場合は適判が不要とされています。国土交通省の資料では、仕様基準で評価する場合は省エネ適判は不要とされています。

省エネ適判が必要かどうか、どの評価方法をとるかで、外皮(外壁・窓・屋根など)の仕様や設備機器の選び方が変わります。確認申請の直前に計算を始めると、断熱や窓の仕様を変えるための意匠の修正が発生することがあります。また同条第2項では、適判を受けた計画を変更する場合、軽微な変更を除いて改めて判定を受ける必要があるとされています。計画の途中での大きな変更は、手続きのやり直しにもつながります。個別の建物の扱いは、所管の行政庁や指定確認検査機関に確認してください。

予算と工期も、早めに共有していただきたい条件です。空調方式ひとつをとっても、初期費用を抑える方式と、運用費や更新のしやすさを重視する方式では、機器もスペースも変わります。工期が短い場合は、製作に時間のかかる機器を避けるといった判断も必要です。

将来の増設や更新の見込みも、設計に反映できます。テナントの入れ替えや機器の追加、将来の設備の増設などが想定されるなら、予備の配管ルートや盤のスペース、屋上の余地を残しておけます。設備機器は建物より先に更新の時期を迎えるので、搬出入の経路まで考えておくと、建物を長く使いやすくなります。

早めに渡したい情報のチェックリスト

基本設計の打ち合わせの際に、次の表を確認用に使っていただけます。すべてが決まっていなくても、「未定」「可能性あり」と書いていただくだけで、設備側で余地を見込むことができます。

項目共有したい内容遅れると起きやすいこと
室用途・在室人数室ごとの用途、ピーク時の人数、使用時間帯空調・換気の容量の見直し、機器の入れ替え
テナント・厨房業態、厨房の有無、火気使用の有無排気ダクトの立て経路の後付け、給排水の容量不足
天井高・天井ふところ天井高、階高、梁せいと梁の位置ダクトが通らない、梁貫通の追加検討
PS/DS/EPS各階の位置と大きさ、上下の連続横引きの増加、天井内の干渉
機械室・屋外機置場位置、広さ、搬入経路、周囲の状況置き場の不足、騒音や排熱の問題
インフラ電力・ガス・上下水道の位置と容量、下水道の区域引込協議の遅れ、受変電設備や浄化槽の置き場探し
法規用途地域・防火地域、省エネ適判の要否と評価方法外皮や設備の仕様変更、手続きのやり直し
予算・工期設備工事の予算感、竣工時期方式の選び直し、機器の納期との不整合
将来計画増設・更新・テナント入れ替えの見込み予備スペースがなく、改修時に大がかりになる

まとめ

設備の手戻りの多くは、情報の中身よりも、受け取る時期によって生まれます。室の使い方、設備の居場所、インフラ、法規と予算、将来計画の5つを、平面と断面が固まる前に共有していただけると、意匠の意図を守りながら設備を納めやすくなります。決まっていないことは「未定」のまま共有していただくのが、いちばんの近道です。こうした場面で迷ったら、計画の早い段階でご相談ください。

松野 永岬

松野 永岬設備設計一級建築士/日本美環室 代表

積算事務所・設計事務所・設備工務店を経て2007年に独立。工場の耐震改修に伴う設備設計から、店舗・住宅まで幅広く手がける。プロフィール

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